東大要約問題のレシピ

 東大英語の第1問Aは伝統的に、短めの英文を読んで、それを(年度にもよるが大体)80字くらいの日本語にまとめる、という出題がなされています。他大学では見ることのない、ユニークな出題と、短めとはいえども、ある程度の長さのある英文全てを自力でまとめなければならないという威圧感から、東大志望の学生の皆さんは、特に要約対策に強い関心があるように思います。実際、巷でも、古くは伊藤和夫先生の『英語要旨大意問題演習(駿台文庫)』をはじめ、ほぼ東大でしか出題がないのにもかかわらず、多くの対策本が出版されていることからも、その関心の高さがうかがえます。学校などで東大志望の生徒さんを指導される先生方も、要約問題の指導をされている方が多いのではないでしょうか。
 そのようなときに、困ってしまうのは、すぐに使えるちゃんとした要約問題(*1)は基本的に東大の過去問しかないということではないでしょうか。そして、東大の過去問の場合、先生方が授業で教材に扱うにしても、生徒の皆さんがすでに解いたことがある可能性を考慮すると使いにくいといったことがあるでしょうし、生徒の皆さんとしては、過去問は温存しておきたい(*2)が、要約の練習はしたいというときに使える教材がないといった事態になる場合が多いかもしれません。
 しかし、良い時代となりました。というのも、今はAIという強力な武器があります。そして、AIで新作のオリジナル問題を作る場合、意外なことに最も簡単に作れるタイプの問題は、間違いなく要約問題なのです。以下は、主に生徒さんのために指導者の方が問題を作成することを念頭に置いた、問題作成のレシピではありますが、ぜひ、生徒の皆さんも時間があるときにやってみてください。そうすれば、東大要約の本質が見え、その対策が立てられるようになる(*3)のではないかと思います。
 

(*1)
 英文があれば、一乗寺の経験上、どんなものでも要約が作れると考えている学生さんは多いようですが、実際はそんなことはありません。また、仮に要約できるとしても、その字数は当然ながら文章の内容に依存します(短い文章でも筆者が重要と考える論点が多ければ短く要約はできないし、逆もまたしかり)。よって、なんでもかんでも100字で要約しようといった練習自体も実はナンセンスです。このあたりの事情を全く考慮しないで、長文問題の教材おまけとして、要約例を載せているものが巷では氾濫しています。大抵、そういうものは、明確な基準はなく、なんとなくあらすじをそれっぽくつないでるだけに過ぎない場合がなんと多いことやら…。なお、このあたりの要約問題の事情について詳しく知りたい人は、代ゼミの富田一彦先生の『英語長文問題解法のルール144下(大和書房)』を読んでみることをお勧めします。

(*2)
 ちなみに、一乗寺は、少なくとも受験生が過去問を温存することはお勧めしません。そもそも、敵(?)を知らない状態でどうやって志望大学の対策ができるのか?とはいえ、限られた良問を、全く歯が立たないレベルのときに消費してしまうのは考えものではあります。温存するかしないかは、やはり状況によるでしょう。

(*3)

 (*2)と重なりますが、結局、敵を知らないでどうやって対策ができるのか、という話です。だから、最初のうちは、問題を解くことより、どういう仕組みで解かれることを想定して設計されているかを研究することが重要になります。そしてその研究に最も有効なのは、問題の作り方を見てみることに他なりません。もっとも、問題の作り方という手の内を見せている教材は、世の中にほとんどないでしょうが。

①AIに東大英語(第1問A)の過去問の何年か分を学習させる。
②要約問題の解答になる70~90字程度の日本語を用意する。
③要約問題を学習させたAIにその日本語をみせる。
④AIに、それが要約の答えになるような英文を生成してくれと指示する。

 基本的に、これだけでかなり本格的な要約問題が完成します(もちろん、完成した英文をもとに多少模範解答を調整したり、一部語彙に注釈をつけたりする必要がある場合もありますが…)。また、AIには適宜、もっと語彙を簡単にして、まとめやすくして、修辞表現や複雑な構文を交えた文章にして、といった具体的な要望を伝えるだけで、難易度調整も可能です。

 以下は私がAIに作らせてみた東大要約問題用の英文です。ちなみに、最初に伝えた想定解答は以下のようなものでした。

湯船につかるという日本式の入浴様式は、自律神経を整えリラックス効果が期待でき、汚れを落とすことが主な目的と見なされることの多い一般的な入浴様式とは一線を画す。(79字)

 ちなみに、この内容は一乗寺がそれっぽい内容をテキトーに考えました。さて、これをもとに、AIはどんな英文を作ってくれたでしょうか。以下、その英文になります。

Bathing is one of those daily activities that most people rarely stop to think about. In much of the world, a bath or shower is understood primarily as a matter of hygiene — a quick and efficient way to wash away the dirt and sweat that build up over the course of the day. Even in cultures where people do occasionally choose to soak in warm water for comfort, this is usually seen as a secondary benefit, something pleasant but incidental to the real business of getting clean.
    In Japan, however, a rather different tradition has taken shape. People typically wash and rinse their bodies outside the tub before stepping into it, a practice that reveals something important about the purpose of the soak itself. Since the body has already been cleaned, what follows is not about hygiene at all. The time spent submerged in hot water is instead directed toward a less visible but no less valued goal: restoring a sense of internal balance that the pressures of daily life tend to disturb.
    There is, in fact, a physiological basis for this. When the body is immersed in warm water up to the shoulders, core temperature gradually rises and blood vessels widen, allowing circulation to improve. These changes activate the parasympathetic nervous system — the branch of the autonomic nervous system that governs the body’s rest-and-recovery functions. As this system becomes dominant, heart rate slows, breathing deepens, and accumulated muscle tension begins to ease. The process is not dramatic, but its cumulative effects — on stress levels, sleep quality, and even long-term immune function — have drawn increasing attention from medical researchers.
    What is perhaps most striking is that these benefits are not an accidental byproduct of the Japanese bathing tradition. The entire ritual, from the preliminary washing to the extended soak, appears to be structured around creating conditions in which this physiological shift can occur. In other words, relaxation is not a bonus; it is the point. This stands in quiet contrast to the assumption, common elsewhere, that bathing is essentially a practical task — one that should ideally be completed as swiftly as possible.

 というわけで、ここまでできれば、後はこの英文をもとに要約の字数の再検討をし(英文生成の過程で英文に多少の要素の変化が生じるため、最初に与えた日本語が完璧に生成された英文の要約とは一致しない場合が多々あります)、解答例を作り、その解説を書くという工程を経ていただければ、あっという間に、東大要約問題の完成というわけです。ちなみに、この工程すらも、ある程度の質を担保しつつ、AIに下請けさせることも可能です。よって、レシピに以下の工程を加えてもよいでしょう。

⑤AIに問題を解かせて、解答例、解説、全訳を作ってもらう。

 以上、すべてAIに外注して作ってもらった解答例、解説、全訳をまとめたものが、以下のPDFデータになります。

 まあ、AIに丸投げしただけなので、解説としてはイマイチな部分があるのは否めませんが、それでも授業準備の時間が厳しい時にやむを得ず使えるくらいのものはできたといえるのではないでしょうか。もちろん、この解説部分を人間が時間をかけて作成すれば、かなり優れた教材ができること間違いなしです。

 AIがあの天下の東大要約問題を一から作れると聞いて、もはやAIは「どんな問題でも作れるのでは?」と思われた方がいらっしゃったかもしれません。残念ながら、今のAI性能ではそこまでではありません。むしろ、要約問題という特殊な性格によるものです。
 要約問題とは、ものすごくざっくりいえば、英文をカッコよくするために、筆者が自分の主張に飾りをたくさんつけた英文から、その飾りをはぎ取る作業を要求する問題というわけです。逆にいえば、問題を作る側からすれば、ひとまず答えとなる主張を作って、そこにそれっぽい飾りをつけまくれば問題文が完成してしまう、ということです(そもそも、これは何かを主張する文章の構想の練り方そのものかもしれません)。そして、このそれっぽい飾りつけこそ今のAIが最も得意とすることなわけです。だから、東大の要約問題こそ、AIが最も得意とする問題形式というわけなのです。世間の受験生や、指導者の方が最も熱を入れて扱っている、この東大要約問題が、最もあっさりAIに扱われてしまうというのは、何とも皮肉な話ですが…。
 今日のAIの性能の向上は、目を見張るものがあり、この先どこまで発展するかははかり知れません。しかしながら、まだAIは、あらゆる問題を作れるレベルには到達していないようです。これは、少なくとも、一乗寺に幸いなことです。もし、AIがあらゆる問題を作れるようになってしまったら、このサイトの存在意義はなくなってしまいますし、制作者プロフィールの名前が、ChatGPTとなってしまうでしょうから…。